止まる

息が白く夜景に濁る。足早に過ぎても赤や白のイルミネーションがしかい視界の至るところに映る。これを見たらはやてがニコニコするのは容易に想像できるが、当の本人は病室だ。

一週間前、はやては倒れた。確実に病ははやてを犯していた。健気に大丈夫、大丈夫と繰り返す彼女はとても痛々しかった。ケーキの袋を崩さないように、されど足早に病院を目指した。

オレにできることは……。

「あの、この前の…」
「…?」

後ろから声がかかった。この世界でオレを呼ぶ者ははやてと医師くらいしかいないはずだが。振り返って見てみるとはやてくらいの年齢の子がいた。

……あぁ、思い出した。なんだか寂しい目をしたあの少女。

「あの時はありがとうございました」

軽く頭を下げる彼女。クリスマス独特の雰囲気とは不釣り合いな気がした束の間、赤黒いそれに気付いた。

「大丈夫なのか」

何のことかと分からない様子だ。オレは彼女の腕を引き、近くの公園のベンチに座らせ、彼女のひざにハンカチを当てがう。あ、と小さく声を上げた。

「……ありがとうございます」

また彼女の髪の毛が垂れる。ハンカチをきゅ、と締めてオレは彼女に対して思っていたことを聞く。

「異国の者か?」
「!」

あぁ、いや、聞き方がおかしかったか。今の言葉で彼女はだいぶ困惑しているようだ。

「あめりかがっしゅうこく?」

立ち上がり、そう言うと彼女は目を伏せた。

「……あのお礼を」
「そんなものは」

いらない、と言おうとしたが。

「何ですか?」

言葉に詰まった。
そうだな、あるとすれば。

「友達になってくれ」
「!?」

先ほどより酷い困惑が見て取れた。確かに今のは言葉足らずだったかもしれない。

「はやてと、だ。車椅子の」
「……それは」

彼女の返答を聞く前に軽快な音楽が空気を切る。

「すまない、電話だ」
「……はい」

急いで携帯の着信相手を確認せず電話をとる。はやての元気な声でネジ大丈夫?事故おうてないか?と期待して。けれど、この電話が鳴るのはいつもーー





「はやて」

力加減が壊れたようだ、彼女は苦笑いをする。

「ネジ……手痛いて」
「はやて」
「あ、そや……そこの、ノート見て」

ふとベッド脇の小さなテーブルの上にあるノートを見た。オレが何を書いてるんだ、と聞くとまだ見たらあかんよーと注意されていたノート。

「ネジはまだ……ここ慣れてないから……必要なだけやけど、書いて、おいたから……こ、れで大丈夫、やで」

表紙をめくると物の説明や言葉の意味、様々なことが事細かく記してある。後ろのページまでオレへ伝えたいことが沢山、滲みそうな程に書いてあった。

「……はやて」
「ネジありがとうなぁ……」
「ほんまに、ありがとう……す……」

今度は身体全体を抱きしめる。痩せ細った彼女の骨が折れて痛みで目が覚めそうな強さで。




















「……?」

あれ、私……もしかして眠気やったんか?気怠い身体を起こすといつもの病室で……あれ?私が首を傾げているのノックせずに看護婦さんがやってきた。

「はやてちゃん!?」
「あ、さっきはお騒がせしてーー」
「モニター心電図止まってたのに! ……ふ、不調だったのかしら」

慌てふためく看護婦さん。どうしたんやろか。

「壊れてないみたいだけど……えぇ……? は、はやてちゃん、何ともない?」
「は、はい……」
「それに日向さんもいないし……何だか夢でも見たみたいね……」

ネジ……そうや、ネジにも謝らなあかんな。それでクリスマスのお祝いもして、また来年もこうやって祝えたらなって。



でも、それからネジは私の前に現れなかった。