再会

「そう。最近は調子良いのね」
「はい! ネジが来てから何か変わった気がします」
「じゃあ診察はここまで」

何回来てもここは慣れない。独特の匂いと清潔感と白で満ちた世界。そんな世界に何回も来院しているはやては凄いと思う。目の前にいる医者ははやてから目を離し、オレを一瞥した後カルテに視線を移す。

「はやてちゃん採血して……日向さん、お話が」
「はい」

また、事情聴取だろうか。最近は怪しまれなくなったがオレが初めて来た時は部外者扱いされたり、質問攻めを受けた。はやてのとっさのフォローで事なきを得たが……。はやては「ネジ、後でな」と言い残していき、部屋にはオレと先生の二人となった。





「……はやてが」
「はい」
「あんなに元気なのにか」
「麻痺が進行していっています。この様子だとーー」










「もうすぐクリスマスやなぁ……ネジのとこにサンタさん来るかなぁ」

オレの膝に頭を乗せ、彼女はそう呟く。彼女の性格上、クリスマスに何かしら用意してくれているんだろう、そしてそれを早く言いたいのだろう。そわそわとそれを匂わす発言をしている。彼女の頬を撫でると少しくすぐったそうにこちらを見る。「はやてにもサンタさん来るかもな」と言ってやるとハッとした表情になった。
「ツリーの星買うの忘れてた!」
「……あぁ、無くしたんだったか」

彼女はわたわたと飛び起きると車椅子に乗ろうとする。時計を見ると7時半ーー……急げば間に合うか。オレは彼女の動作を止め、自分が行くことを告げる。はやては渋ったが兄を頼れの一言で大人しくなった。最近のはやては甘えることを覚えてくれたらしく、恥ずかしそうにありがとうと言った。そして、帰ってきた頃には美味しいかぼちゃ料理を用意してくれるらしい。はやての料理はとても美味しい、が。かぼちゃだけはやはり駄目だと伝えているのに「ちゃんと食べなあかんよ」と諭されるので諦めつつも俺の身体のことを考えていることに感謝して家を出た。



「流石に冷えるな……」

行き程には急がず、だが冷えから逃げるような速度で帰り道を歩く。今頃はやてはどうやってオレに美味しくかぼちゃを食べさせようか考えているんだろうな。そんなことを考えていると人影が見えた。その人影はよろよろとしたかと思うとーー

「!」

思うより前に身体が動き。オレはその人影ーー老人が地面に倒れこむ前に抱き抱える。

「大丈夫ですか?」
「おぉ……」

老人はオレの手を取り起き上がった。

「な~んてな死んだフリ~」
「今のは本当にこけたように見えたが……」
「……うーん、平和ボケし過ぎたかの……」

独特のノリを持っている方らしい。それにしても何処かで見たような……。

「…!! チヨバア様!!」
「はて」
「チヨバア様、覚えてますか! 風影奪還の時…!」
「はて…」

首を傾げるチヨバア様にオレは思わず俯いた。

「アンタ死んだんか?」
「……!」



今までのことを全部話した。自身もチヨバア様も死んだこと、戦争が始まったこと。そしてはやてとの出会いも。話の途中には雨がポツポツと降り始めていたが構わずチヨバア様は聴いてくださった。

「話は分かったが…ワシにもこの世界が何かは分からん」

一つ息を吐いた。吐息が白く濁る。

「チヨバア様」
「ん?」
「あともう一つ聞きたいことが」