優しい少女

ショッピングモールというところに連れてこられた。この世界にはこの服装は目立つみたいだ。

「見られてるな……」
「その格好変わってるもんなぁ……あ、これとか似合うんちゃう?」

はやては両手にハンガーを持ちオレにひらひらと見せる。その時ひそひそと声がして、思わず眉間に力が入る。仕方がないとはいえ不快だ。

「この世界に合うものなら何でもいい」

センス云々はよく分からない。はやての選ぶ物に間違いは無いだろうという意味で言ったのだが伝わったのか伝わってないのかはやてはそっか、と言ったと思えばカゴに持っていた服と更に二着三着四着と入れてーー五着六着。

「買い過ぎだろう……」


購入後。早速更衣室で着替えたオレにくすぐったい言葉が飛んでくる。

「うん! やっぱ似合うなぁ!」
「……礼を言う」

はやての目線に合わすようにしゃがみ、心からの気持ちを伝える。するとはやてはオレの手をぎゅっと掴み、眩しいくらいの笑顔で頭を振る。

「ええんやええんや! 家族やし!」

素直でいい子だな、と思った。そして言葉の一個一個がオレの心に柔らかく、だけどまっすぐに入ってくる。リーに対するガイ先生の気持ちがこんな感じなんだろうか、となんとなく思った。

「なんだかくすぐったいな」
「繊維が?」

そして素直でまっすぐだからこそか、たまに天然なところが愛おしい。ヒナタ様やハナビ様とはまた違う妹みたいだ。きょとんとするはやてに対して、少し口元が緩むのを感じる。

「そうじゃない。……家族と改めて言われると」
「……なんか私まで恥ずかしなってきた」

車椅子を翻し、先に行こうとするはやて。それに手を添え、はやてに少し荷物を持ってもらい店を出る。

「オレは恥ずかしくない。慣れないだけだ」
「何やその意地ー」
「意地ではない」
「あはは」


「? あの子……」
「知り合いか?」

はやての目線の先に、綺麗な金髪をなびかせた少女がいた。

「いや、最近よく見かけるなーって。綺麗な子やから覚えてもうた」

少女はケーキ屋の前で顔を上げては俯かせ、を繰り返す。

「ちょっと行ってくる」
「はやて」

オレの手からサドルが離れ、はやては目先のケーキ屋に向かう。オレも少し足早に後を付いて行った。少女は、自分に近付くはやてに気付き少し狼狽えた表情を見せた。

「どうしたん?」

そんな少女に、はやては助けになろうとする。

「あ……ケーキ、欲しくて……」

切実そうな、声。大切な誰かにでもあげるのだろうか。

「そうなんや、どのケーキ?」

少女はガラスケースの中にある苺ショートケーキを指差す。

「そっか。店員さーん! このケーキ欲しいねんて!」

大きな声で奥にいるであろう店員を呼ぶはやて。しばらくすると眠そうにエプロンを着けながら男が出てきた。はやてが苺のショートと注文し「寝てたらこんな可愛い女の子の客逃しますよー」と軽く談笑したかと思えば何故か割り引いてもらっていた。オレも一人暮らしだったがこんなにたくましくなるものだろうか。

「ありがとう……」

感心していると少女がはやてにぎこちなくはにかんで、はやてに頭を下げた。

「ううん! 困った時は助け合いや!」

頭上げて、とはやてが苦笑すると少女はもう一度軽く頭を下げた。

「なぁなぁ、外国の人? どこから来たん?」
「……ありがとうございました」

そう言って足早にその場を去った。わざと、近寄りがたいものを感じさせた……気がした。

「ええんよー!」

はやては気にすることなく手を大きく振る。

「あの子も他のとこから来た子やったりして」
「……何故そう思う?」

少女からはやてに目を向ける。

「冗談や。ただ……寂しそうな子やなとは思ったけど」
「……そうだな」

見慣れたようなあの目。あれは孤独を抱えている者の目。父上の死。うちはサスケ。昔がよぎる。

「よし! また会ったら話しかけよ!」

それを遮るように明るい声がオレの意識を揺さぶる。

「お前は優しいな」

思わず頭を撫でようとしてハッとする。ガイ先生じゃあるまいし。はやては少し首を傾げた。

「私が話したいから話すだけやで」
「それだけじゃない」

ネジさん大袈裟やで、と苦笑するはやての前でしゃがみ、蒼く澄んだ目を見る。

「身寄りのないオレを助けてくれた」


しばらくの沈黙を破ったのははやて。バッと顔を逸らしたかと思えば、

「……それは、人として当たり前やし、それに今となっては、私が、助けられとる」

ぎこちなく喋る様子に胸の奥で温かいものを感じた。