置いた額当て

「この中身は何でしょう!」
「……ケーキ」
「せーかい!」

心地の良い日常と化した少女との生活。少女は箱を両手に持ってえへへ、と笑顔を見せていた。

「流石ネジさん」

気付いたらオレはこの八神家の世話になっていた。いや、その前にも意識はあったが……木の葉にある建物より大きな建物の数々、見知らぬ人々の視線、何もかもが未知と感じた意識。その中の一人だけ、世話焼きで家事が得意な少女ーー八神はやてがオレを家族のように出迎えてくれた。

「忍者って透視できるねんなー」

はやてはテーブルに置いた箱からチョコケーキ、チーズケーキと一つずつ皿に乗せ、オレに取れと促す。ケーキを買ってもらった自体悪いのだが……はやてに先に選んでもらいたい。はやてはこういう些細なことでも自分は後でいいと遠慮する人間だ。前に二人でソファにくつろぎながらテレビを見ていた時、膝枕のシーンが流れてそれに対しええなと呟いていたから試しにと自身の膝を叩いたら真っ赤になるぐらい手を振られた。……はやては意味が違うだのなんだの言っていたが、自分がしたい側だったのだろうか。ともかくオレに気を遣いすぎだと思う。

「透視は白眼を持った者だけだ。だがこれは箱だけで分かる」
「あはは、そやなー」
「はやて。オレは世話になっている身だ、これ以上気を遣わなくていい」

無駄だとは思いつつも、言った。

「私がしたいねん」

はやてもいつもと同じ台詞を言う。

「……ずっと一人やったし、寝る時もお喋りできるの本当に嬉しい」
「……」

はやての気持ちが分かるからこそ、何も言えなくなる。父上と食事をして、修行して、風呂に入って、寝る。そんな当たり前の様に思えた日々がパッとなくなってしまう感覚。

「でもネジさんが元の世界に帰らなかったら家族が困るやんね」

そして、一人ではなくなった時それが失われる怖さも。

「……家には一人だ、宗家の方には従兄弟がいるが」
「え」
「だが、そうだな。オレがいなくなったら泣いてくれる奴は……」
「……」
「目の前に」

ナルトには泣いて欲しくは無い、ヒナタ様は強くなっただろう、リーは……泣くだろうなと色々考えがよぎったが、目の前の“家族”が一番心配だった。

「え、私……」
「お前も、家族と思ってくれてるんだろう?」
「……! うん!」

テーブルに座ってるオレと対になる形でテーブルに車椅子を寄せるはやて。とりあえず近くにあったチーズケーキを取るとはやてはもう片方を引き寄せた。

「……甘すぎるな」

一口。これだけでこんなに甘いのか、と思ったが何故だかフォークが止まらない。

「そう? めっちゃ美味しいけどーーそれにしてもそれそんなに大事なものなん?」

思わず顔を上げる。はやてが自身の額をとんとんと指すのを見て気付く。

「癖だな、つい着けてしまう」
「かっこええけどなー」

後頭部に手をやり額当てを外す、もうこれは不要だ。ーー呪印の消えた額がオレは死んだと理解させた。